FeverStory

雨のち喫茶、晴れのち君

第3話 祖母が遺した言葉

朝から雨は小降りになっていた。灰色の雲が低く垂れ込め、アスファルトの路面には昨夜からの水たまりが鏡のように空を映している。商店街のシャッターはまだ半分以上が下りたままで、雨に濡れた「創業五十年」「手づくり餡子」といった褪せた看板だけが、かつての賑わいを静かに物語っていた。

商店街の空き店舗を改装した「まちづくり相談所」に足を踏み入れると、むっとした湿気と、何人分もの濡れた靴下の匂いが混ざった空気が鼻をつく。すでに十数人の店主たちが集まっていた。壁際に並べられたパイプ椅子のほとんどが埋まり、入口近くの隅だけが空いている。私はそこに腰を下ろした。椅子の座面はひんやりと冷たく、スカート越しにその温度が伝わってくる。

前の説明会より参加者は少ない。けれど空気はずっと重かった。誰もが俯き加減で、腕を組み、あるいは膝の上で指をこすり合わせている。ため息のひとつも聞こえてきそうな、そんな沈黙が薄暗い室内を満たしていた。

正面のホワイトボードの前に、航平が立っている。濃紺のスーツに薄い水色のネクタイ。手にした資料の束を小さなテーブルに置き、店主たちの着席を待っていた。表情は硬く、誰とも目を合わせようとしない。その立ち姿には、何かに耐えるような緊張感が漂っている。

私は膝の上で指を組んだ。指先は冷え切っていて、自分の体温がどこか遠くにあるみたいだ。昨日の千円札は、まだ店のレジにそのまま入っている。あの時、航平がコーヒーカップの下に置いた一枚。受け取るべきかどうか、今も答えは出ていなかった。

「では、始めさせていただきます」

航平は一礼してから、ホワイトボードに図面を貼り出した。マグネットで四隅を留める小さな音が、静まり返った部屋に妙に大きく響く。商店街の見取り図の上に、色分けされた工区と矢印が書き込まれている。赤い線で囲まれた東側の区画が、まるで傷口のように見えた。

「第一期工事のスケジュール案です。東側ブロック——アーケードの入口から時計回りに六区画を先行着手します。着工は梅雨明けの七月中旬、完了目標は九月末」

ざわめきが広がった。誰かが息を呑む気配。別の誰かが椅子の上で身じろぎする音。

「九月だって?」

乾物屋の吉岡さんが身を乗り出す。椅子の脚が床を擦って、耳障りな音を立てた。「そりゃあんまり急すぎやしないか。六区画まとめて取り壊すってことだろう」

「段階的に進めますが、安全面から一帯の仮囲いは必要です」

「仮囲いって、その間は商売できねえってことか」

金物屋の富樫ヨシオが低い声で言った。帽子は膝の上に置き、厚い指を組んで腕を組んでいる。その手は長年の金物仕事で節くれ立ち、皺の一本一本に油と鉄の匂いが染み込んでいるようだった。

「工事期間中の営業休止をお願いする店舗も出てきます」

「話が違うじゃないか」

前に座っていた履物屋の佐藤さんが椅子を鳴らした。七十に近いはずだが、声にまだ力がある。その張りのある声が、かえって場の緊迫感を高めた。「前の説明会では、営業しながらできるようにするって言ってたじゃないか」

「全体説明会では基本方針をお示ししました。本日は具体化した工程をお伝えしています」

航平の声は落ち着いていた。けれど昨日、店でコーヒーを飲んだ時の声より、一段と硬い。まるで一枚のガラスを挟んでいるような、そんな距離があった。

「順序を入れ替えることはできないんですか」

私の斜め前で、和菓子屋の奥さんが遠慮がちに手を挙げた。普段はいつも笑顔で接客している彼女の声が、今は小さく震えている。

「技術的な検討を重ねた結果です。建物の老朽度と配管の状況から、東側を先に整備するのが適切と判断しました」

「うちは西側だけど」と別の声が上がる。「次はいつになるんだ。一年後か、二年後か。それまで客は戻らんぞ。今でもうシャッター通りなのに」

「第二期の着手は来年四月を予定しています」

「予定って、そりゃ会社の都合だろう。こっちには生活があるんだ。孫の入学祝いも、来月の仕入れの支払いも、全部かかってるんだ」

声があちこちから飛び交い始めた。

私は口を開けずに、膝の上の指を見つめていた。開店からまだ数年しか経っていない店もある。三十年、四十年と続けてきた店もある。祖母の店もそうだ。どの店主にもそれぞれの時間が染みついている。壁の染み、カウンターの手垢、引き戸の立てつけの悪さ——そのすべてに、日々の営みの記憶が詰まっている。それを「老朽度」という言葉で一括りにされることに、胸の奥がぎゅっと縮むようだった。

「会社としては、できる限り早く新しい商店街の形をお見せしたいと考えています」

「新しい形ねえ」

ヨシオが組んだ腕をほどいた。そのゆっくりとした仕草が、かえって場の空気を張り詰めさせる。「俺たちはなにも、新しいもんが欲しいわけじゃないんだよ」

空気が変わった。それまでの不満が、別の種類の緊張に変わる瞬間だった。誰かの喉が鳴る音さえ、聞こえたような気がした。

「どういう意味でしょう」

「そのまんまだ。この商店街は俺たちが守ってきた。守るっつうのは、そのまま残すってことだ。なのにあんたたちは来るたびに図面が変わってる。そんなに急いで、なんになる」

航平は一瞬息を呑んだように見えた。でもすぐに、口元に薄い笑みを浮かべる。それは笑顔ではなく、ただ唇の形を変えただけの表情だった。

「ご懸念は理解できます。しかし計画の遅延は、商店街全体の価値低下にもつながりかねません」

「価値ってなんだ」

ヨシオの声は静かだった。静かだからこそ、部屋の隅にいる私のところまで届いた。その声には、怒りよりも深い悲しみが滲んでいた。「数字か。効率か。そういうもんじゃ測れねえもんがあるって、あんたの歳ならわかるんじゃないか。祭りの夜にここで笑った顔も、閉店間際に駆け込んできた子供の手の温かさも、全部この石畳に染みてるんだ」

「富樫さん」

吉岡さんが隣からなだめるように声をかけた。

しかしヨシオは構わず続けた。声はあくまで平静だったが、言葉の端々に抑えきれない熱が宿っている。

「ここにいる連中はな、この商店街で食ってきたんだ。いい時も悪い時もあった。それでも店を閉めなかったのは、ここが俺たちのもんだからだ。あんたみたいな、昔の商店街を知らねえよそ者が、図面一枚で急げと言って——」

「ヨシオさん」

私は立ち上がっていた。

自分の声だとは思えなかった。膝の上にあったはずの指が、スカートの布をぎゅっと握っている。心臓がうるさくて、耳の奥で血の流れる音がする。立ち上がった拍子に椅子がかすかに軋み、その音で自分が本当に立ち上がったのだと理解した。

ヨシオが振り返った。他の店主たちも一斉にこちらを見る。その視線が肌に刺さるようだった。

「……少し、言い過ぎです」

声が震えた。でも引っ込めるわけにはいかなかった。唇の端がわずかに痺れている。緊張で血流がおかしくなっているのだと、頭のどこか冷静な部分が考えていた。

「よそ者とか、そういう話じゃないはずです。ちゃんと、話を聞かないと。私たちが声を上げるのと同じくらい、相手の話を聞くのも、この商店街のやり方だったはずです」

ヨシオは一瞬驚いた顔をして、それから小さく息を吐いた。反論はしなかった。ただ帽子をもう一度膝に置いて、椅子に深く座り直す。その横顔に、かすかな後悔のような影がよぎったのを、私は見逃さなかった。

私は航平を見た。

彼はまっすぐに立っていた。さっきまでより背筋を伸ばして。その手は資料の端を握りしめ、指先が白くなっている。

「おっしゃる通りでございます」

航平の声が一段と丁寧になった。

私はその温度を知っていた。十年前、教室の隅で誰かに詰め寄られた時の彼と同じだ。傷ついている時ほど言葉が綺麗になる。感情を消すために、敬語の一枚一枚を盾にする。あの頃も、彼はそうやって自分を守っていた。

「私どもはまだ、この土地に住んだことがございません。その点で、皆様のご心配に十分お応えできていないと痛感しております」

違う、そういうことじゃないのに。

心の中で叫んでも、航平には届かない。届ける言葉が、私にはまだなかった。言葉はいつだって、一番大切なところで足りなくなる。

「お前はどう思うんだ」

沈黙を破ったのは、またヨシオだった。

椅子を少しだけこちらに向けて、彼は私を見上げている。目は笑っていない。けれど怒ってもいない。ただ、答えを待っている。その眼差しには、ひとりの商人としての真剣さがあった。

「栞ちゃん。お前はこの商店街で店をやってる。喫茶店の店主として、聞かせてくれ。さっきも口を挟んだんだ。お前の意見を聞きたい」

全員の視線が私に集まった。部屋の空気が、まるで生き物のように私を取り囲む。

指先が冷たくなっていく。スカートを握る手に力を込めても、震えは止まらなかった。何を言えばいいのかわからない。ただ、何かを言わなければいけないことだけは、わかっていた。この場で口を閉ざすことは、祖母の店を閉ざすのと同じだ。

私は一歩、前に出た。床がわずかに軋み、その音が静寂を破る。

「……この店は」

声が掠れた。唾を飲み込む。喉が張り付いて、うまく息ができない。心臓が早鐘を打ち、こめかみのあたりが熱い。

「この店は、祖母が遺した時間そのものです」

言葉は自分でも驚くほど小さかった。けれど部屋の隅々まで届いたのがわかった。誰も咳払いひとつしなかったから。誰も身じろぎひとつしなかったから。

「祖母は五十年、ここでコーヒーを淹れました。いい時も、悪い時も。再開発の話が出るずっと前から、ここにいました。朝早くに豆を挽く音で、商店街の一日が始まったんです。私はまだ、二年しか立てていません。でも」

指が震えている。声も震えている。それでも続けた。

「でも、祖母が守った時間を、私も守りたいんです。ただ残すだけじゃなくて、これからも続けていきたい。朝の光が差し込むあのカウンターで、これからもずっと。だから……急に全部を決めるのは、怖いです」

最後の方は、もはや誰に言うでもなく絞り出した言葉だった。喉の奥が熱くなり、視界がわずかに滲むのを感じた。

顔を上げる。

航平が私を見ていた。

ほんの一瞬。けれど確かに、彼は私の目をまっすぐに見ていた。説明会の時も、店に来た時も、こんなふうに視線を合わせたことはなかった。その瞳の奥に、何かが揺れたような気がした。

小さく、一度だけ、航平が頷いた。

「承りました」

その一言だけだった。でもさっきの敬語とは違う。温度があった。ちゃんと人の体温の通った言葉だった。冷たいガラスの向こうではなく、すぐそこから聞こえる声だった。

私はその場にへたり込みそうになるのを堪えて、小さく会釈をしてから席に戻った。足ががくがくと震えていて、まっすぐ歩くのがやっとだった。隣の和菓子屋の奥さんが、そっと私の膝に手を置いた。その手のひらの温かさに、初めて自分が冷え切っていたことに気づく。

「休憩にしましょう」

商店街の役員を務める時計屋の主人が立ち上がった。彼の声はどこかほっとしたような響きを含んでいた。「十五分で。まだ話は終わっちゃいないからな」

椅子が次々と引かれる音。ため息と、小声の会話が混ざった。張り詰めていた空気が、ゆっくりとほどけていく。

私はなんとなくその場を離れたくて、相談所の外に出た。引き戸を開けると、湿った外気が頬を撫でる。

軒下には雨粒がぽつぽつと落ちている。さっきまで小降りだったのに、また少し強くなっていた。梅雨時の空は気まぐれだ。空気は湿っていて、コンクリートと土の匂いが混ざっている。どこか遠くで、カラスが一声鳴いた。

誰かが立っている。

航平だった。

壁に背を預けて、腕を組んでいる。顔はやや俯き加減で、こちらには気づいていないようだった。背広の肩が雨に濡れて、色を濃くしている。その濡れた布地が、やけに重たく見えた。

立ち去ろうかと思った。でも足が動かなかった。アスファルトに根が生えたみたいに、その場に縫い止められる。

「……ご迷惑をおかけします」

航平が顔を上げずに言った。その声は雨音にかき消されそうなほど小さく、かすれていた。

「迷惑ではありません」

私の返事は早すぎた。考える前に口から出ていた。自分の声が、思ったより強い調子で響く。

航平はゆっくりと顔を上げた。それでも私の目は見ない。見ないまま、小さく息を吐く。その吐息は白くはなかったけれど、どこか白く見える気がした。

「さっきのは」

と、航平が言いかけて、やめた。言葉の先が、雨の向こうに溶けていく。

私は何か返そうとした。でも適切な言葉がどこにもなくて、軒下の雨音だけが間を埋める。雨粒がトタンのひさしを叩く音が、やけに規則正しく響いていた。

航平が腕を組み直した拍子に、スーツの袖口から左手首が覗いた。火傷の痕。昨日店で見た時と同じ位置に、同じ古い跡があった。皮膚がわずかに引きつれた、あの痕。私は視線を外さなかった。外せなかった。

「……昔と、変わりましたね」

私の声だった。

何を言っているんだろう、と思った。でも止まらない。言葉は堰を切ったように、次から次へと溢れてくる。「前は、ああいう場で誰かに何か言われても、黙っている人だったのに。ずっと俯いて、誰とも話さなくて、放課後はいつも一人で本を読んでて」

航平は答えなかった。

でも腕を組んだ指先が、ほんの少しだけ白くなった。爪の先に血の気が引いていくのが、遠目にもわかった。

「あなたは」

航平が口を開く。その声は、雨音に負けないくらいはっきりとしていた。

「あなたは、変わりませんね」

その声には、敬語の鎧がなかった。ただの声だった。十年前と同じ、低くて少し掠れた、彼の声。教室の窓辺で、一度だけ聞いたあの声。

私は何かを言おうとして、でも言葉にならなかった。喉の奥で言葉が詰まって、ただ口を開け閉めするばかりだった。

航平が背中を壁から離す。濡れた背広の布地が、壁にわずかな跡を残した。

「休憩が終わります」

そう言って、彼は相談所の中へ戻っていった。私だけが軒下に残されて、雨の音を聞いている。彼の足音が遠ざかり、ドアの開閉の音がして、また静寂が戻る。

十年前とは違う自分が、ここにいる。こうして声を上げられるようになった自分が。

でも結局、何も変わっていない自分も、確かにここにいた。彼の前では言葉を失い、ただ見送ることしかできない、あの頃のままの自分が。

相談所の中に戻ると、空気はいくぶん和らいでいた。休憩中にそれぞれ話をしたのだろう。吉岡さんが時計屋の主人と肩を並べて、航平の持ってきた図面をもう一度覗き込んでいる。ふたりの背中越しに、色分けされた工区の線がちらりと見えた。

私はさっきの隅の席に戻った。パイプ椅子の座面は、さっきよりもさらに冷たく感じられた。

ヨシオが近づいてきて、隣に腰を下ろす。彼の動きはゆっくりとしていて、どこか気まずそうでもあった。

「悪かったな」

帽子を膝の上で弄りながら、彼は言った。節くれだった指が、帽子のつばを何度も撫でている。「急にあんな水を向けて。でもよかった。お前の本音が聞けて」

「……うまく言えませんでした」

「それでいいんだよ。うまいこと言うのが仕事なのは、ああいう会社の連中だけで十分だ。俺たちはうまく言えなくても、ちゃんとここで生きてきたんだからな」

ヨシオは帽子を被り直す。その仕草はどこか照れくさそうで、普段の強面が少しだけ和らいで見えた。

「ところでさ」

声のトーンが少し変わった。さっきまでの詫びるような調子ではなく、もっと踏み込んだ、真剣な響きだった。

「婆ちゃんがな、一度だけお前に話しておきたいことがあるって言ってたんだ」

私は立ち止まるようにして、ヨシオの顔を見返した。心臓がまた、とくんと小さく跳ねる。

相談所の中では、他の店主たちが散っていく。椅子を片付ける者、まだ航平に質問を続ける者、それぞれだ。そのざわめきの中で、ヨシオの声だけがやけにはっきりと耳に届いた。

「どんな話かは、俺も詳しくは聞いてねえ。ただ、自分がいなくなった後のことだって言ってたよ。店と、それから栞ちゃんのことだと。あの人は最期まで、自分のことよりも店と孫の心配をしていたよ」

祖母が。

五年前、静かに息を引き取ったあの人。最後まで店のことを気にしていた。病院のベッドの上でも、明日の仕込みはどうしたと言って、私を困らせたあの人。サイフォンの手入れは欠かすな、常連のお客さんの好みを忘れるな、そう言って何度も同じことを繰り返した、あのしわがれた声。

「その話、いつか聞かせてもらえますか」

「今度な」

ヨシオは立ち上がった。膝が少し痛むのか、立ち上がりざまに小さく顔をしかめる。「そのための時間は、これからいくらでもあるさ。この商店街がどうなろうと、俺たちの縁までなくなるわけじゃねえ」

そう言って彼は、帽子を目深にかぶり直し、雨の降る外へ出ていった。引き戸の向こうで、彼の背中が雨に滲んでいく。

私はしばらく、その場に立っていた。膝の裏がかすかに震えているのは、緊張のせいか、それとも立ちっぱなしだったせいか。

航平は相談所の反対側で、年配の店主に何か質問を受けている。真面目な顔で頷きながら、時折メモを取っていた。その横顔は、十年前と変わらない生真面目さで、でも昨日、店でコーヒーを飲んだ時より、ずっと疲れて見える。目の下にうっすらと隈が浮かんでいるのが、この距離からでもわかった。

それでも彼は、この町に戻ってきたのだ。自分の意思で。あるいは、もっと別の何かに突き動かされて。

わからないことばかりだった。十年前のことも、今の航平のことも、祖母が遺そうとした言葉のことも。でも、わからないまま立ち尽くしているわけにはいかない。それを今日、私は初めて、みんなの前で言ったのだ。

自分の店を、自分で守るのだと。

航平が顔を上げた。

ほんの一瞬、視線が交わる。今度は、逸らされなかった。彼の瞳が、まっすぐに私を見つめている。そこにはかつてのような諦めの色はなく、かといって強い決意があるわけでもなく、ただ、何かを探しているような光があった。

そのまま彼はまた、店主の質問に答えるために俯いた。私もまた、雨の音を背中に聞きながら、相談所をあとにした。引き戸を閉める寸前、もう一度だけ振り返る。航平はもう顔を上げていなかった。

外はまだ、梅雨空だった。これから何度も雨は降り、そしてやがて夏が来る。その頃にはこの商店街はどうなっているのだろう。分からないことだらけのまま、私は店への道を歩き出した。雨に濡れた石畳が、一歩ごとに小さく音を立てる。それはまるで、遠い昔に誰かが刻んだ足音のようでもあった。

雨のち喫茶、晴れのち君第3話 祖母が遺した言葉