FeverStory

外れスキル『翻訳』で魔物と会話できた俺が、伝説級と契約して大陸最強に成り上がる

第4話 審問場、証跡の刻

三つの複写が机の上に並んでいる。蝋燭の火を受けて、紙の端がわずかに反っていた。

朝の資料室には誰もいない。ソーマは観測板の青い光を消し、窓を開けた。夜の間に溜まった空気が動く。エルナが持ち込んだ観測記録と、ピケの古代文字の写し、それにギルドの契約紋の見本。三種を一枚ずつ照合し、共通する線を黒インクでなぞった。

「同じだ」

「何が同じだって?」

ピケが入り口に寄りかかっている。いつからいたのか、手には冷めたパンを持っている。

「偽の命令紋と契約紋。一見別物だが、軸になる真名文字の構造が一致する」

「そりゃどういう意味だ」

「作り手が契約の知識を持っている。神学校の印章に似ているのも偶然じゃない」

ソーマは三枚の複写を重ね、隅を留め具で挟んだ。

「これが公聴の基準になる」

「公聴って、お前また面倒を呼ぶつもりか」

「もう呼ばれてる」

廊下から足音が近づく。重い靴音。止まり、ドアが三度叩かれた。

「ソーマ・イツキ。公開審問場へ来られたし」

「誰の差し金だ」

「巡回査察官ベネディクト・ロウ様が、リュカ・ハウルネアの拘束令と異端審査通達を提出。ギルド長の指示で急遽、聴聞を開くことになった」

ピケがパンを飲み込む。

「おい、拘束令って」

「想定内だ。来い」

ソーマは三種の複写を筒に収め、立ち上がった。

公開審問場は円形で、壁に沿って立ち見が出るほどの人だ。ギルド長が正面、隣に見知らぬ神官服の男——白い祭服に銀の鎖。ベネディクト・ロウが、壇上からソーマを見下ろした。

「魔物を使役する異端の者と、その獣を連行する」

兵士が二人、リュカの両側へ回り込む。ガルドが間に割って入り、冊子を広げた。

「待て。冒険者互助規約の現行依頼優先条項だ。ソーマ・イツキは昨日、下層街の迷宮破れを収めた。ギルド登録者として現行依頼完了の手続き中であり、拘束より報告が先だ」

「互助規約ごときが神託の審査に勝るか」

「勝る負けるの話じゃない。手続きの順序だ。査察官といえど蔑ろに出来ん」

ガルドは一歩も引かない。ベネディクトの指が銀の鎖を撫でた。ソーマは壇上へ目を上げ、静かに言い放つ。

「拘束するなら根拠を公開しろ。異端の判断材料とやらを聴聞で示せ」

「神の権威に公開だと?」

「根拠もなく獣を括る方が権威を落とす。第三者立会の上、ここでやらせてもらう」

ギルド長が頷いた。

「例外的に許可する。双方、証拠と証言のみで問答せよ」

ベネディクトの顔色が一瞬だけ変わった。だが、すぐに薄い笑みに戻る。

「いいだろう。神学校が下す判断の前座にはなるがな」

聴聞が始まった。ベネディクトが最初に示したのは、リュカが「武器を先に置かず人間へ近づいた」という証言書。次に神学校の鑑定書。真名契約は神の言葉を穢すと書いてある。

ソーマはリュカへ短く合図した。

「武器は持っていない。それを示したのはお前の兵士たちだ」

リュカが前足を揃え、首を下げ、顎を床近くまで落とす。武器を置く代わりの、あの動き。

「これが合図だった。対等の条項として、武器を先に置いた」

「獣の仕草など証拠にならん」

「なら観測記録を見ろ」

ソーマが筒から一枚引き抜く。エルナが観測板を起動する。波が壁に流れた。

「エグリム、偽の命令紋。神学校の印章に似ている」

次にピケの古代文字の写し。続けて二級実験品の記録——エルナが昨夜、ギルド倉庫から突き合わせた目録だ。

「この紋は自然発生しない。この紋がどうやって神学校の印と一致する」

ベネディクトが前のめりになった。

「神托の権威を愚弄する気か」

「質問に答えろ。この紋を作れるのは誰だ」

「偽物だ。異端者がでっち上げた」

「この観測記録には波形の時間も残っていて、でっち上げでは出ない共鳴がある。聴聞官、原本をどうぞ」

聴聞官が観測記録を引き寄せる。長い沈黙。波の山が、神学校の印章と同じ形を作っている。

「……証拠を採択する。異端判定は取り下げとする」

ベネディクトが一歩下がった。白い祭服の袖が震えている。そこへ、マティアス・グレインが壇上へ上がった。

「押収品から見つけた。官印と信徒名簿だ。二級実験の持ち出し記録が、名簿の四名と一致していてな」

マティアスがベネディクトを見る。目は笑っていなかった。

「査察官殿、説明してもらおうか」

ベネディクトは答えない。兵士が左右から近づき、銀の鎖を外して腕を取った。

ギルド長が特例認可書に署名し、台帳を開く。ペン先が紙を走る音が、静かな場内に響いた。

「ソーマ・イツキを伝説級契約者として公式登録する」

兵士に肩を押され、ベネディクトが通路を歩き出す。数歩進んで、ふと足を止めた。

「……牙将はすでに王都南門へ向かっている」

振り返って、ソーマをまっすぐ見る。余裕の笑みが、屈辱の下から浮いていた。

「何の話だ」

「南門外で目撃された。魔王急進派の部隊が動いたと、先ほど知らせが入ったよ」

場内がざわめく。ギルド職員が駆け込み、ギルド長の耳元で何かを告げた。

「南門外で複数の目撃情報だと」

ソーマの左手が、無意識に魔核片へ触れる。微かに震えていた。リュカが隣で低く唸る。

「外だ」

「わかってる」

ソーマは台帳へ走った署名を一瞥し、筒を握り直した。リュカが一歩、出口の方へ踏み出す。

場内のざわめきが、やがて一つのざわつきになる。南門外の部隊。牙将という言葉。どちらも、まだソーマの知る形には結びつかないまま、魔核片の振動だけが妙に早くなっている。

「行くぞ」

ソーマが歩き出した。リュカがその横に並ぶ。後ろで、マティアスが配下の兵士に指示を飛ばす声が聞こえた。

外れスキル『翻訳』で魔物と会話できた俺が、伝説級と契約して大陸最強に成り上がる第4話 審問場、証跡の刻